リスボアの「回遊魚」をご存じでしょうか。
マカオの歴史の1ページに残る、印象的な事柄の1つです。
残念ながら2015年に回遊魚は絶滅。
現在では見ることができません。
知る人ぞ知る「回遊魚」の歴史を紐解き、その秘密に迫ります。
リスボアの回遊魚とは
回遊魚とは、リスボアを拠点に活動していた女性たちの通称です。
中国語では「葡京沙圈」(リスボアパドック)と呼び、競馬に例えられます。
リスボア本館の地下通路をミニスカート姿のスタイルがいい若い女性たちが、ファッションショーのランウェイのように行ったり来たり歩く様子が、競馬のパドックや回遊魚のようだというのが由来です。
彼女たちは、飛田新地のような短時間の性サービスを提供していました。
豊胸している人が多く、体を触られるのを嫌がる、などの噂を聞いたことがあります。
女性はこの地下通路で客引きをして、交渉が成立すれば一緒に部屋に向かいました。
回遊魚の歴史
回遊魚は1970年代に始まり、40年以上の歴史を持ちます。
費用は30分200~300MOP程度から年々値上がりし、2015年頃には1,500MOP程度だったようです。
詳しい方がおられたら、教えてください。
インターネットには回遊魚に対する口コミがあふれ、件の地下通路はマカオのユニークな観光スポットとして有名になりました。
90年代後半には中国本土の娯楽が多様化し、回遊魚たちは激しい競争にさらされました。
しかしマカオでは、中国大陸出身者に加え東欧や東南アジアの女性たちと遊べるという、国際的な魅力が優位性を保っていました。
しかし2012年以降は、価格高騰と中国の反腐敗運動の影響で富裕層ゲストが減り、回遊魚も減少しました。
これを受け、2013年にホテルの総支配人でスタンレー・ホーの甥である何猷倫は、中国本土で性産業に従事していた王巧遇を副支配人に抜擢し、改革を行いました。
彼らは回遊魚の活動を規制するとともに、彼女たちを保護する名目で1人あたり15万人民元の「入場料」を取り、女性をランク分けしました。
その後、2015年にガサ入れで回遊魚は壊滅しました。
回遊魚の秘密の掟
回遊魚には、私たちが知りえない秘密の決まりがたくさんあったようです。
回遊魚の決まり
- 回遊魚は通路で立ち止まってはいけない
- 客を囲んではいけない
- 必ずスカートを着用しなければならない
※違反者はホテルを追い出され、以降の客室利用禁止に加え、1,500香港ドルの罰金が科される
違反に対するペナルティはかなり厳しいですね。
時々スタッフがチェックしに下りてきたりしたのでしょうか。
回遊魚も楽じゃない
回遊魚として働くためには、多くのお金を収める必要がありました。
- 回遊魚になるため、最初に15万元の入場費
- 毎月1万元の保護費
- 1日1,000元以上の部屋代
ホテル側が積極的に介入し、しっかり場所代を取っていたんですね。
かなりお金がかかるため、数人で1部屋を借りて使いまわししていたという話もうなずけます。
回遊魚ランクの秘密
ホテル側はコンピュータシステムを組んで、女性のランク分けと部屋の振り分けをおこなっていました。
ランクはC、T 、Pの3つがありましたが、2013年の「改革」以降さらに細かく5つのランクに分かれました。
- C:最高グレード。客室に長期滞在可能
- CT:空室があれば客室を利用できる
- T:オフシーズン(100部屋以上空室がある場合)に客室を利用できる
- PT:特別な状況の場合のみ客室を利用できる
- P:客室利用不可
どのように女性の格付けを行っていたのかはわかりませんが、どおりでスタイルのいい美女ばかりが歩いていたわけです。
ランクの低い女性たちは、付近のホテルなどを利用していたのでしょうか。
回遊魚の部屋にまつわる隠語
リスボアホテル5階と6階の合計120室が彼女たちに振り分けられました。
部屋は隠語で「炮房」と呼ばれていました。
これは「大砲を撃つ」という意味から下ネタに転じた「打炮/打砲」と、部屋という意味の「房」を合わせたスラングです。
回遊魚は、決められたカウンターでチェックイン/チェックアウトを行わなければなりませんでした。
また警察の摘発を避けながら仕事を続けさせるため、ホテルの警備員が回遊魚に「コード1だから出るな」などと暗号を使って知らせることがあったそうです。
絶滅した回遊魚
2015年1月、2,000人以上の女性を有し4億パタカ(56億円)以上の不法利益を得た容疑で、マカオ最大の売春組織こと回遊魚が一網打尽にされました。
マカオ中国返還以来、最大の性産業関連の逮捕劇です。
この際、ホテルの総支配人と副支配人を含む経営側6名と96名の女性が逮捕されました。
これ以降、回遊魚の仕組みは完全に崩壊し、誰もいなくなってしまいました。
マカオ政府は、それまで風俗産業に対して目をつぶってきました。
時折小規模な摘発を行う程度で、回遊魚には手を出しませんでした。
ですからこの事件は、大規模な摘発およびセレブであるスタンレー・ホーの甥が逮捕された点で、大きな驚きをもたらしました。
なぜ回遊魚は絶滅した?
これは中国の反腐敗活動の一環だったという人もいます。
中央政府が黒社会や汚職を打倒しようと力を入れている時期も、回遊魚は規模を縮小しませんでした。
回遊魚の大規模摘発以前、中国本土では大々的に風俗や賭博、麻薬を取り締まっていました。
汚職に関与した多くの政府高官は権力を失い、ついにマカオに順番が回って来たのだという人もいます。
また2013年に回遊魚に「改革」が行われてから、ホテル側は警察に協力しなくなりました。
これら色々な要素が複合的に絡み、回遊魚一掃作戦が実施されたのです。
語り継ぎたいマカオの歴史
私がマカオに来たのは2010年ですから、もちろん回遊魚を生で見たことがあります。
ギラギラした男女の欲望が火花を散らす、独特の雰囲気が漂う空間でした。
大人にとっては面白い場所でしたが、子どもも出入りできる普通の場所に、えっちなお姉さんが大量にうろついているのは、教育上あまりよろしくなかったかもしれませんね。
ちょっと危険な香りが漂う猥雑な感じが昔のリスボア、ひいてはマカオの魅力でしたが、マカオもクリーンになりました。
それでも、「若い人は知らないかもしれないが、こんな歴史があったんだよ」というのはガイドとして語り継いでいきたいなと思います。